友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 こちらがヤケになって力いっぱい叫べば、彼は優しい声をかけてくれる。
 蛍くんの顔色を窺うと、口元にはいつの間にか笑みが浮かんでいた。

「菫さんは、俺が世界一尊敬できる上司です」
「褒めたって、何も出ないからね」
「構いません。こうしてプライベートな時間もご一緒できるだけで、充分ですよ」

 彼は一度リビングから自室と思われる部屋へ移動し、クローゼットを開けてからすぐに戻って来る。
 その手には、袋に入った女性用のパジャマと歯ブラシセットが握られていた。

「着替え、ここに置いておきます」
「これ、新品だよね? いいの?」
「菫さんのために、買っておいたんです。遠慮せずに、使ってください」
「あ、ありがとう……」

 この国で知らぬものはいないとされる大企業、篝火グループの傘下で販売中の商品で統一されているのは、違和感があった。
 しかし、あのブランドはメンズファッションの需要も高く、私達も仕事で何度か特集を組んだことがある。

 ――気の所為、だよね。
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