友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 こうなることを見越して予め準備を済ませていたのだ。
 そうポジティブに考えたところで、あまりにも用意周到すぎると思う気持ちは、簡単には捨て切れなかった。
 この結婚には何か裏があるんじゃないかと疑わずにはいられない。

「お気に召しませんでしたか」
「何が?」
「移動する気配がないので……。ブランドに、こだわりがあるのかと……」
「そんなの、ないよ! お風呂、お先にいただくね」
「はい。行ってらっしゃい」
「い、行ってきます……」

 家族以外と同居した経験がないからこそ、こうやって送り出されるのにはどうにも慣れない。
 私は引き攣った笑みを浮かべてお風呂場へと引っ込むと、ササッとシャワーを浴びて身を清める。

 蛍くんは私のために買ったって、言ってくれたけど……。
 元カノ用だったら、どうしよう?

 ――なんて。
 取越苦労もいいところだ。
 彼の歴代彼女が何人いようとも、今の私には関係ない。
 そういう感情に振り回されるのが嫌で、部下と結婚する人生を選んだのだから……。

「よし」

 ――くよくよしている暇があるなら、前を向くべきだよね。
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