友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
『明日の午前中、旦那さんと一緒に顔を出します』

 数分とかからずに着信が山のようにかかってきたけれど、すべて無視をした。
 締切を倒したといえども、安心はできない。
 少しだけ残業をしたあと帰宅しないと、来月の作業に支障が出てしまう。
 それは今までの経験上、明らかだったからだ。

「大丈夫ですか。携帯、ずっと鳴ってますけど……」
「うん。気にしないで? 家族から一体どう言うことだって、説明を求める電話なの。明日、顔を合わせた時に伝えればいいだけだもん」
「そうですか……」

 蛍くんは仕事の電話だったら出なくちゃまずいだろうと、気にしてくれていたようだ。
 そのきめ細やかな心遣いに感心しつつ、彼が荷物を纏めて立ち上がる姿を確認して送り出す。

「これから撮影なので、失礼します」
「いってらっしゃーい!」

 私は1人で社内に残り、黙々と仕事に取り込む。
 作業を続けていると、あっという間に退勤時間がやってきた。

 待てど暮らせど、彼は帰ってこない。
 直帰とは書いてないから、戻って来るような気がするけど……。
 残業をしながら待ち続けるのもどうかと思い、今日はまっすぐ帰ることにした。
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