友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 明日、一緒に両家挨拶をするって約束したもん。
 会社じゃなくて、自宅で待っていればいいだけだ。
 私達は、夫婦になったんだから……。

「お先に失礼しまーす」
「お疲れ!」

 私はスーパーで食材を買い込んでから1人で帰路につき、蛍くんから預かっている合鍵を使って彼の住む部屋に足を踏み入れる。

「お邪魔します……」

 家主がいないとわかっていても、「ただいま」とは言えなかった。
 この家は私の帰る場所ではなく、蛍くんのお家だという感覚が抜けないからだ。

 このまま夫婦として暮らし続けたら、いつかは「ただいま」と「お帰り」の挨拶が当たり前になるのかな……?

「結婚してから妻らしいこと、なんもしてないなぁ……」

 買い物袋から買ってきたばかりの食材を冷蔵庫に投げ込み、ポツリと呟
 く。
 独身時代となんにも変わらない新婚生活に、これでいいのかという思いが拭えない。

 ――やっぱり友情結婚なんて、しないほうがよかったのかな。

 1人で彼の部屋にいると、駄目だ。
 ネガティブな感情がぐるぐると頭の中で回っては、自己嫌悪に陥ってしまうから。

 ――気分転換に、料理でも作ろうかな……。

 私はそう思い立ち、ストレスを発散するためにフライパンを振るった。
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