友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「おいしいです」
「ありがとう! 手料理を振る舞う機会なんて、今までなかったから……。お世辞でも、嬉しい」
「本心ですよ」
「蛍くんは、本当に褒め上手だよね」
「菫さん限定です」

 蛍くんに喜んでもらえてよかったと胸を撫で下ろせば、不敵な笑みを浮かべる彼と目が合った。

 ――なんだかさっきまでとは、雰囲気が違うような……?

 そんな違和感をいだいて不思議に思っていれば、彼から思わぬ言葉が紡がれる。

「そうなの……?」
「はい。とても、貴重ですよ。菫さんは俺の特別だってこと、忘れないでください」

 蛍くんは私を好きなわけではないと言っていたはずだ。

 ――これは一体どういう意味なんだろう……?
 そう問いかけたい気持ちと、彼の言い分を素直に受け止めたい気持ちが交差する。

「うん……?」

 複雑な思いをいだきながら口にした言葉は、彼に了承として受け入れられたようだ。
 それきり、会話が止まってしまった。

 ――もっとこの話を突っ込んで聞きたいけど、時間は有限だ。

 明日の打ち合わせのために使ったほうがいいと考え直し、作戦会議を行うために自分から声を発した。
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