友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 ただでさえ、業務終了後に打ち合わせをしなければならないほどに、いくら時間があっても足りないような状況なのだ。
 だからこそ、どんなに空気が最悪であったとしても気にする素振りを見せず、普段通りに声を発し続けるしかなかった。

「今月号も、もう少しで校了だね。一緒に頑張ろう!」

 結局2人だけの会議は20分ほどで終了し、話が途切れた。
 ここから先は会社で残業か、帰宅してゆっくり身体を休めるかは本人の意思に委ねられる。

 ――私は当然、ここに残って仕事を続ける予定だ。
 伊瀬谷くんは、どうするのかな?

 普段の彼なら、さっさと出版社を出ていくはずなのに……。
 いつまで経っても椅子に座ったまま動く気配がないので、心配になってしまう。

「伊瀬谷くん。もう、打ち合わせは終わりだよ? もうすぐ終電、なくなっちゃう。早く帰ったほうが、いいんじゃ……」
「すいません。仕事と関係ない話なんですけど。少しだけ、いいですか」

 こちらが帰宅を促せば、何を考えているかすらもよく読み取れない表情で話があると提案されてしまった。
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