友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「時間に余裕があるなら、好きなだけどうぞ?」

 上司としては、それを突っぱねるわけにはいかないだろう。
 私は満面の笑みを浮かべて彼に促す。
 その直後、それを後悔することになるなど知りもしないまま……。

「桐川さんって、ご両親から結婚をせっつかれているんですか」

 手を休めることなく仕事をするには、スピーカーで通話するのが一番だ。
 会議室には私しかいないのだから、誰にも迷惑をかけずに済むと行動したのが仇となった。

 相手が年配男性なら、「ハラスメントですよ」と告げて突き放せた。
 しかし、相手は人畜無害の部下だ。
 彼はどんな雑用を押しつけられても文句を言わずに黙々とこなす天才タイプだし、私も密かに即戦力として信頼している。
 こんなどうでもいい雑談のせいでクビにされては、溜まったもんじゃなかった。
 もしもそうなった場合、彼の抜けた穴を埋めるのは、間違いなく自分になるのだから……。

 事の発端は、こんなところでプライベートな会話を堂々としていたこちらにある。
 嘘をついてその場を凌いだら、彼との信頼関係が壊れてしまう。
 そんな危機感をいだきながら、素直に打ち明ける。
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