友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 蛍くんの暮らすマンションに到着するまで、彼はずっと無言だった。
 こちらが顔色を確認するために覗き込めば逸らされてしまったし、「あの話題に触れるな」と見えない壁を作られているみたい。

 それを無理やり破壊するのは、いつだって出来た。
 だけど……。
 今回は、様子を見ることにしたんだ。

 優しい彼のことだから。
 落ち着いたらきっと、自分から話しかけてくれるに違いない。
 そう、信じていた。

「すみませんでした」

 ――蛍くんが口を開いたのは夕飯とお風呂に入り終わり、あとは寝るだけというタイミングだった。

 夫は姿勢を正して床に胡座をかいて座り、頭を下げた。
 そんな彼に釣られるようにして会釈をし返すと、仏頂面に近い表情が目に入った。

「覚悟はしていましたが、あそこまで酷い言葉をぶつけるとは思いませんでした。なんとお詫びをしていいか……」
「うんん。私だって、同じだもん。お互い様だよ?」

 そんなふうに責任を感じる必要はないと言葉を尽くしても、彼の顔色は優れない。
 悔しそうに、唇を噛み締め続けるばかりだった。
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