友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「こう言う格好は、これきりにしてください」
「ご、ごめんね。派手すぎたかな!?」
「心臓に悪いので」

 蛍くんは丁寧語のままではあるが、唇を噛み締めて苦しそうにしている。
 明らかに、体調が悪そうだ。

「具合、悪いの……?」
「そうですね。胃がムカムカします」
「大変! 帰らなくちゃ!」
「いえ。こうして休日を満喫できる機会は滅多にないので、このまま目的を済ませましょう」
「でも……」
「今日は自宅に戻るまで、それを脱がないでください」
「蛍くん、寒くないの?」
「俺は平気です。それと、俺から離れないこと」

 彼は当然のように指先を絡め、予定をこなそうと促す。
 蛍くんがこうして手を繋いだのは、元気いっぱいの幼子が走り回らないように監視する、親の役目を果たしているだけだ。
 深い意味はないとわかっていた。
 でも、ドキドキと心臓の行動が高鳴るのを止められなくて……。

「う、うん……」

 私はその音がどうか聞こえていませんようにと願いながら、引き攣った笑みを浮かべて会場内へ脚を運んだ。
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