友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 ――さっきまではカメラに向かって七変化を見せていたが、撮影を終えた途端に随分と影が薄くなったように見える。

 椅子に座って項垂れる姿は、遠くから見るとかなり異様だ。

「具合でも、悪いのかな……?」

 撮影ディレクションを任されている立ち場として、この状況は放っておけない。
 私は蛍くんに一言断ってから、声をかけようと思ったんだけど……。

「ああ! ディレクターさん、やっときたー! もう、遅いですよぅ。撮影、8割方終わっちゃいましたよ? もっと、意見を聞いてから撮影したかったのにぃ!」

 それよりも早くにカメラマンの九尾さんが、こちらに駆け寄ってきた。
 今日初めて顔を合わせたはずなのに、なぜか彼女の声には聞き覚えがある。
 一体、どこで聞いたんだろう? 

「ごめんなさい。時間が押していて……。でも、とっても素晴らしい出来栄えでしたよ? 私からは、なんの不満もありません」
「ほんと? よかったー! 莉子、ずっと不安だったの……っ」

 不思議に思う時間がもったいないと、写真を確認して撮影の腕を褒める。
 すると九尾さんは、心底ほっとした様子で微笑む。
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