恋は計算通り、君は想定外

11 主人公を名乗る俺の前に、彼女が座っていた。

 「‥‥‥‥」
 足取りを考えると、その彼女は校舎裏から一目散に走ってきた。何か急ぐ用事でもあったのか。
 「ほう‥‥」
 その少し後を、楽しそうにあるいてきたのは、爽やかイケメン大井沢と、正統派美人の水沢さん。
 二人で並んで歩いている時に発生している眩いオーラは、ぼっちのモブには圧が強すぎて、見るだけで骨折してしまうだろう。
 だが俺が注視したのは大井沢の持っている傘だ。明らかに女性もののそれは、彼が普段使いするには似合わない。恐らくは水沢さんのものだ。校舎裏には部活棟があり、大井沢の所属しているサッカー部の部室もある。
 俺の推理はこうだ。
 サッカー部が今日休みなのは最初から決定している。それを知った水沢さんは、友達から誘われたカラオケを断り、大井沢のいる部室に行ったが、雨が降っていたので傘をさして行った。大井沢は傘を持っていなかったのか、それとも持っていないという事にしたのか、とりあえず、水沢さんの傘を二人で使おうとしたが、すぐに雨は止んでしまった。
 それで、二人並んで校舎裏から出てきた‥‥と、いうのが普通だが、現実は意外に満ち溢れている。実際はとんでもない事実が隠されているのかもしれない。
 とりあえず、二人はとても仲がいい‥‥今言えるのはそれだけだ。
 爽やかイケメンというのは、主人公に対するアンチテーゼとして存在する。付き合っている状態から、何かのハプニングが起こるはず。大井沢に惹かれていればいるほど、水沢さんは苦悩する事になるだろう。
 その渦に俺はどんな原因で巻き込まれていくのか、楽しみでもある。
 「‥‥‥‥ふふ」
 足元のアスファルトの上にたまった水たまりを蹴りながら、俺は小さく笑った。
 ところで、学校は私立高校という事もあり、通う生徒達の住む場所も様々だ。だから徒歩で通う者もいれば、自転車、電車、バスなどで通学する者もいる。手段は様々だ。俺はといえば、徒歩二十分という、徒歩と自転車の境目ぐらいの位置に借りたアパートに住んでいる。それで徒歩を選ぶのは、こうして歩きながら色んな事を考えて整理する時間に、丁度いいからだ。
 そういうわけで今日も俺は学校のある郊外から、商店街を抜けて住宅街まで、思索の時間を満喫するつもりでいたのだが。
 商店街の路上にあるベンチに腰を下ろして俯いてる女子生徒を発見してしまった。
 スマホでも見ながら休憩でもしてるのかと思ったが、両手はポケットに突っ込んだままで、黙って地面を見つめている。
 困った事に俺の進行方向にそれがある。これが全く知らない奴なら、そのまま素通りすればいいが、中途半端な知り合いだと、それもおかしい。俺がもしモブAなら、大回りして回避しただろうが、それは主人公の取る行動ではない。
 仕方がない。気はすすまないが。
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