恋は計算通り、君は想定外

14 俺の家に、ヒロインではない彼女が来る

 「そんな事をしなくても、お前はそれなりにクラスの輪に溶け込んでるんじゃないのか?」
 「そうでもないよ」
 草ケ谷はカップを置いて、店内に視線を移した。
 「‥‥‥‥そうか、有坂はこっちに引っ越してきたから知らないんだ」
 「‥‥‥‥」
 「私さ‥‥中学までずっと‥‥何て言うんだっけ‥‥そう、ぼっちだったんだ」
 「全く見えないな」
 「だって努力したのよ。ファッション系のサイト見て研究したし、リア充の集まりみたいなものにも積極的に参加して、色々聞いたり見たりしたし」
 「つまり、お前は自分のぼっちを解消する為に、大井沢を利用したかったんだな」
 「それは言い方悪すぎ!」
 「どう違うんだ?」
 「もういい!」
 草ケ谷は残っていたケーキを口に放り込む。
 「とにかくね、大井沢君は、水沢さんと付き合ってないって言ってた。だったら私にだってチャンスがないわけじゃない!」
 「そうかもしれないが、それには段階が必要だ。チャンスを掴むには準備をしないと後悔するぞ」
 草ケ谷はフンと言って立ち上がる。
 残されたのは俺とケーキ。全くとんでもない目にあった。
 「甘‥‥」
 草ケ谷は何かをしようとしている気がする。何をしたとしてもそれは大井沢に関わるもので、水沢さんにも余波がくるものだ。その結果どうなるかは今の段階では分からない。それでも何パターンか考えておく方がいいだろう。
 その日は胸やけがして大変な目にあったが、どうやら偶然の渦に巻き込まれつつあるようだ。
 それから何の特筆すべき出来事もなく一週間程たった後。
 家への帰りの途中、今ではめっきり少なくなった本屋へ寄り、気になっていたラノベの新作をチェックする。その後、商店街のスーパーに寄って夕食のカレーの材料を買った。完全に遅い帰宅が決定した。
 「‥‥‥‥」
 アパートの前に誰かいる。入口はパスワードを入力しないと扉が開かない様になっており、その人物も、立ち往生しているのだろう。
 そいつは‥‥全く、勘弁してほしい。
 「他人のアパートの前で何をしてるんだ?」
 「‥‥‥‥」
 うずくまっていたその人物‥‥女子生徒は俺がそう聞くと、顔を上げた。
 「良かった、なかなか帰ってこないからどうしようかと思った」
 何だか草ケ谷の声が弱々しい。いつものツンとした感じがないのは妙な感じだ。
 「ここって有坂のアパートだよね?」
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