恋は計算通り、君は想定外

17 恋の盤面を動かすのは、やっぱり俺

 納得してないようだったが、言う通りにしてもらわなければ全てが繋がらない。
 「それから、そこでは、絶対にその会社の人には笑顔で返せ。例え、どんな理不尽な事を言われてもだ。短時間バイトだしそう苦痛にはならないはずだ」
 「は?」
 「そんな事態になっても‥‥の話だ。笑顔‥‥それが一番大事だ。いつものようにムスっとしては駄目だからな」
 「‥‥‥‥別にそんな顔してないし」
 「今、してるだろ?」
 「‥‥‥‥」
 求人票を持つ陽奈の顔がひきつる。
 三日程は不満すら言えない程に疲労していたが、俺はそれをねぎらう様な事はしない。ぼっち脱却というのは、生半可な覚悟では到底不可能なのだ。
 「あーもう辛い。肩が痛い。腰が痛い。あんな重い物、女子に運ばせるなんて信じられない!」
 「ちゃんと笑顔で返事してたか?」
 「もち。でもさ、事務のお局みたいな人がいて、もう、酷くて。若いんだがらもっと手早く動きなさいとか、煩いったらもう‥‥」
 「そうか」
 順調に事は運んでいる様だ。
 更に俺は学校の中でも網をかける。
 「クラスに橘愛理という女子がいるだろ?」
 「え?‥‥ああ‥‥いたかもね」
 バイト終わりは俺の家で、苦手な科目を勉強させている。苦手‥‥と、言うか、並より少し下ぐらいの成績なので、まずは全体的な学力を向上させなければならない。狙うのは期末テストで全科目を八十点以上にする事だ。水沢さんに比べてバカではそもそも話にならない。
 「悠太って学校で勉強とかしてない感じだけど、何でそんなに出来るの?」
 「陰で努力してるからな」
 「‥‥‥あーそうですか‥」
 陽奈は本棚にある参考書を見てから机に突っ伏した。
 「それで、その橘さんがどうしたの?」
 机に頭をつけたまま、籠った声で聞いてきた。
 「陽奈は彼女と友達‥‥親友になってくれ」
 「は?」
 ガバっと体を起こす。
 「何で彼女?」
 「そうだな‥‥陽奈は橘さんにどんな印象を持ってる?」
 「どうって‥‥大人しいと言うか、目立たないというか‥‥」
 「確かに、クラスの中ではモブの一人だろうな。だが、モブは主要な登場人物と接触する事が存在意義になる。つまり彼女がどんな人間だろうが、この際は関係がないんだ」
 「‥‥何だかよく分からないけど。‥‥でもどうやって仲良くなるの?」
 「それに関しては考えがある」
 俺は商店街周辺の地図を渡した。
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