恋は計算通り、君は想定外

21 俺の筋書き通りに、物語が動き出す

 「‥‥‥‥」
 俺は日課の、頬杖をついて窓際を眺める仕草をするが、耳だけは彼女達を追っている。
 陽奈の笑い声が時折聞こえてくる。
 既にクラスの中心にいると言ってもいいだろう。
 過去に陽奈がぼっちだった‥‥という事実は消える事はない。それでもそれを口にしようものなら、石垣みつきと、その取り巻き達に止められる。未来は分からないが、現在において陽奈は本物のリア充で陽キャになったのだ。
 それでもまだ陽奈は求めるのだろうか。
 だが賽は投げられた。彼女がどう思った所で、もう止める事は出来ない。
 「草ケ谷さん」
 お!‥‥と、俺は大井沢の声に耳だけではなく、体も向ける。
 ついに始まった様だ。
 俺の頭の中で開始を知らせるラッパが鳴り響く。
 「え?‥‥あの‥‥お、大井沢君‥‥どうしたの?」
 突然呼ばれて、さすがの陽奈も声がうわずる。今は休み時間だが周りにはモブを含めた、半数以上の生徒が教室内に残っており、皆が大井沢の声に振り向いた。さすがにイケメンの力は凄いものだと、俺はただ関心する。しかも当の本人は注目されている事に気が付いていないときた。天然系のイケメンは始末におえない。
 「草ケ谷さんは、商店街にある運送会社でバイトしてるんだよね?」
 「え?‥‥あ‥‥うん」
 遠くから陽奈は俺の顔をチラと見たが、俺は他のモブ生徒と同じ表情で次の大井沢の答えを待っている。
 「やっぱりそうか。実は、あそこで僕の母さんが働いてるんだ」
 「え?大井沢君の‥‥お母さん?」
 「そうそう。痩せて背が高くて眼鏡かけてるから」
 「はいい?!」
 再び俺の顔を見る。だから陽奈、そんなに俺を見るのは流れ的におかしいだろう。
 「その‥‥新しく入ったバイトのコが凄い働き者だって、家で褒めててさ。話を聞いたら、苗字が草ケ谷だって言うから、もしかしたらって思ったんだ」
 大井沢は自覚なく、笑顔で魅了の魔法を辺りに振り撒く。
 「働き者なんて‥‥そんな‥‥」
 「なんだかさ‥‥そこでいつもバイトを雇うんだけど、最後は怒ってやめてしまうらしいんだ。でも草ケ谷さんは、他人の嫌がる大変な仕事も文句一つ言わないでやってくれてるらしくて」
 教室中が大井沢の話を聞いている。いいぞ。
 「い、いえ、そんなに大した事は‥‥」
 今さら謙遜した所で無理だぞ、陽奈。
 「陽奈ちゃん、勉強も出来るのに、バイトまでしてたんだ」
 クラスの女首長の石垣みつきが脇から援護射撃。
 「そうなの?」
 別の女子生徒が聞いてくる。
 「そうなのよ。分からない問題とか聞くと、凄く分かりやすく説明してくれるし」
 「へえ」
 もはや教室は陽奈のオンステージになっている。なぜかその主役が、顔を真っ赤にして下を向いてしまってるが、物語の今の章は紛れもなく陽奈が主人公だ。
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