恋は計算通り、君は想定外

5 主人公になる準備は整ったが、物語が始まらない


「まあ、いいじゃないか、追試は免れたんだし。次、頑張ればいい」
 適当な事を言うが、決して相手を卑下する事を言わない。そしてさりげなく励ます事も忘れない。
「やっぱさ、学年一位って水沢さんかな?」
「さあな」
 慣れてきた事のもう一つは、周りの人間関係を理解できた事だ。
このクラスには大まかに分けて三つのグループがあるようで、男女混合の陽キャの集まる騒がしいグループと、色んな部活に入ってる女子生徒だけ、男子生徒だけのグループ。あとはそれらに属さない帰宅部的な生徒、なんてのも結構いる。
俺はパッと見は、ただ無為に帰宅してるだけに見えるかもしれない。だがそれは、何かの事件が起こった時に迅速に行動する為の余白部分に過ぎない。それに帰ったら予習復習、筋トレ、ランニングと、やる事が山積みだ。
 そんな俺でも、クラス内で目立ってる奴はさすがに知識として押さえている。
 主人公に情報を教えてくれる友人認定した雄二が言った水沢さんとは、水沢都羽さんの事だ。
 彼女は真面目で勉強が出来る。性格も良く、誰にでも爽やかな笑顔で答えてくれる、十人中、十人が美人と言う程の美人で、サラサラの髪と真っ直ぐに切りそろえた前髪と相まってまるで天使のようだ。
 いいぞ。クラスに一人はいる高嶺の花の存在の少女。何か事件が起こるとすれば、彼女が発端になるに違いない。
 星の数ほどあるラノベには、もちろんそれと同じく無数の事件が存在する。事件が起きなければ話として存在しないわけで、それは至極当然の事なのだ。もちろん、学園ものとして何も起こらないクラスも存在するが、それは主人公不在のクラスに限ってだ。
 俺という人間がここにある限り、物語は必ず動きだす。
 その物語が何であるかで、またその内容も違ってくる。青春ものなら、クラスが一致団結して、共に困難を乗り越えていく事になる。恋愛ものなら、それこそヒロインとの絡みが発生し、何らかの事件を経る事によって、二人の絆が深まっていく。ファンタジーなら、このクラスごと異世界転生するという大技が発生するだろう。
 何れにしても、今はその時期が来るのを待てばいい。
 焦る必要はない。
「‥‥‥‥」
 ちょっとだけ微笑んだ後、俺は窓に顔を向ける。そう言えばまだ雄二と話してる最中だったがまあ、いいだろう。
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