恋は計算通り、君は想定外

6 君の視線だけが、物語の誤差を生む

 
 「‥‥‥‥?」
 視線の先にどれを選ぼうかと考えてる最中、突然、女子生徒の黄色い声(?)が上がった。
 何事かと見てみると、一人の男子生徒の周りに数名の女子生徒が集まっている。
 その男子生徒は、大井沢れん。サッカー部に所属している爽やかイケメン。もちろん、周りの女子生徒達は、そんな目立つテンプレート的な人材を放ってはおかない。
 聞くとはなしに会話が耳に入ってしまう。
 どうやら、彼は結構ないい点数だったらしい。今までの要素にプラスして学業優秀までされると、他のモブ男子生徒達では太刀打ちできないだろう。
 まあ、ああいうのは物語の序盤で主人公のかませとしてのみ、存在するわけで、俺がどうこう考えるまでもない。
 そこまではいい、だがヒロインの水沢さんとも話してるではないか。
 “水沢さんに分からない所を聞いたりしたのが良かったのかもね。僕は英語がちょっと苦手だし”
 “ううん、そんな事ないよ。私も勉強になったから”
 「‥‥‥‥なるほど」
 分かった。つまりこれは最初に爽やかイケメンに騙されて好意をもっていたヒロインが、途中でイケメン大井沢の闇の部分に気が付き、そこで窮地に陥るという流れになるのか。
 そこで颯爽と問題を解決するのが俺の役どころなのかもしれない。
 それならなおさら、今は動く時期ではない。
 時期が来れば否応なく物語は動きだす。今は悠々自適に構え、後でその時の自分が全力で対処すればいいだけの話だ。
 「‥‥‥‥ん?」
 隣の席が静かだ。いつも数人が集まって服やアクセサリーとか、押しがどうとか、どうでもいい事にキャーキャー言ってる陽キャ集団が、今日はそんな事もない。その理由は明らかで、いつも対角線上の遠い席から真っ直ぐにこっちに来てる女子二人は、件の大井沢のとこに行ってる。つまり、隣にいるのは、授業初日に俺と席を交換した、彼女しかいない。
 「‥‥妙だな」
 第一印象からすれば、いかにも彼女は今時の女子高生という感じだ。真っ先にイケメンにコバンザメの如く引っ付きにいくのが普通だ。それがなぜ、動こうとしない?
 まさか大井沢のような男は彼女のタイプではないのか? いや、どう見ても、陽キャ同士でお似合いだとは思うが。
 「‥‥‥‥むう‥‥」
 席を交換したので、彼女が見つめる先は、下の教科書か、教卓のある前を向く以外に、一人でいるときの選択肢はない。横から観察する限り、彼女は真っ直ぐ前を向いている。まだ前の授業に先生の書いた字が残っているので、それを見ている‥‥ふうでもない。
 彼女は勉強に対して、そこまで不真面目でも真面目でもない。見ているのは、水沢さんか大井沢。横からだと彼女のちょっと釣り目は、睨んででもいるかのようだ。彼女の中でどう考えてるのか、これ以上は何も分かりようがない。
 俺としては、とにかく、ここで見てるならさっさと行けばいいものを‥‥と、思うだけだ。
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