恋は計算通り、君は想定外

9 三手先を読んだ結果、誰にも気づかれない

 主人公は二手の三手も先を読んだ行動をするもので、それは外から見れば偶然に見える、だが全ては必然であり、いつしか運命に変わる。今はその一手を打った所だ。
 「では次の問題を‥‥‥‥草ケ谷」
 「え? はい?」
 事前に言ってたはずなのに、草ケ谷は驚いた声をあげる。
 「問五の証明を黒板に記述しなさい」
 「‥‥‥‥」
 椅子を引いて立ち上がる時、少し不安そうな顔で俺の顔をチラと見た。
 書いてある内容は間違ってない。そんな心配をする必要もない。
 だから俺は無表情で真っ直ぐに黒板を見つめる。
 草ケ谷がチョークを持って書き始める。
 字が少し汚いが、ちゃんと書き写している。問題はない。
 「‥‥出来ました」
 そうして先生は黒板をじっと見た後。
 「難しい問題だったけど、よく出来たな。それに美しい計算だ」
 「‥‥」
 そう言った瞬間、周りからは驚きの声があちこちから。元々、皆と人付きあいが多い草ケ谷の事だ。休み時間には少しだけ時の人になるだろう。
 「‥‥‥‥あんたの言った通りだったね」
 戻ってきた草ケ谷が、背もたれに深く寄りかかって、フウとため息をつく。その前に言う事があるだろう? ありがとうとか。
 「有坂って勉強出来たんだ?」
 「まあ、普通にな」
 「ふーん‥‥」
 草ケ谷は俺の顔をジロジロと見る。人には怒っておいて、自分はそれでいいのか?
 全く勝手なものだ。
 そうして授業が終わり、机を元の位置に戻す。いつもの頬杖をついて外の景色を眺めるという大事な作業をしなければならない。
 休み時間という事で、クラスの人々は堅苦しい数学の授業から解放されたそのはけ口を、友人との歓談に向けている。
 帰りにどこぞのカラオケに行こうとか、そんな、相変わらずどうでもいい内容で、聞くに値はしない。それでも、無数の女子生徒の声の中、水沢さんの声が聞こえると、すぐに反応してしまう。
 これはつまりカクテルパーティー効果という奴で、それは自分の興味のある事は、ざわついた場所の中でも聞き分けられるという意味らしい。
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