私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
◇◇◇
「終わったー!」
その日、定時を迎えると、菜穂がグッとその場で伸びをした。
「凛は終わった? 帰れそう?」
「それが担当してる外科の先生がレセプトがさっき戻ってきて。もう少しかかりそう。菜穂は今から動物病院だっけ」
「そうなの。ペコの具合が悪くて。手伝えなくてごめんね」
「ううん、お大事にね。また明日」
ひらひらと手を振って去っていく彼女の背中を見送りながら、私は一人、静まり返った受付カウンターで再び深い溜息をついた。
「きりのいいところまでチェックしたら帰ろう」
一日の喧騒が嘘のように静まり返った終業後の受付カウンターで、私は手元の請求書に目を落とす。
ほとんどの職員が帰宅し、パソコンのファンの音だけがやけに大きく響いている。
その時、背後から「冴島さん」と、後輩の事務員に声をかけられた。
「ん?どうかした?」
「さっき廊下で、これを冴島さんに渡してって頼まれたんですけど」
「え?」
視線が自然と、彼女が持つ紙袋に釘付けになる。白地に品の良い銀色のロゴ。彼が好きだったブランドのものだ。
心臓がどくんと、嫌な音を立てる。
「お名前はわからないんですけど、スラっと背が高くて、たまにうちにきてる営業さんだったと思います」
その言葉に心臓が凍り付く。
もしかして……。