私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
言いかけた、その瞬間。一ノ瀬が、なんの前触れもなく私の腕を掴み、強引にぐいっと引っ張った。

「な、何!?」
「行くぞ」
「行くぞってどこに……!?」
「あいつのところ。今から行ってぶつけてこい」
「そんな、いきなりダメだって! それにそんな覚悟……」

私の必死の抵抗も、彼には全く通じない。彼は私の腕を掴んだまま、自分のバイクの方へとずんずんと歩き始める。

その力強い足取りに、私はなすすべもなく引きずられていく。

「離してよ、一ノ瀬」
「覚悟ってのはな、準備ができるのを待ってるような、ぬるいもんじゃないんだよ。腹くくって、無理やり一歩踏み出すことだ。たとえその足がガクガク震えてたって、前に出す。それが覚悟だろ」

彼は私の返事を待たず再び前を向き、私をバイクへと導いていく。今度はもう、抵抗しなかった。

なにもかも一ノ瀬の言う通り。「彼の重荷になりたくない」なんていう、もっともらしい言い訳を盾にして、ただ傷つくことから逃げていた。

いい子のふりをして、本当の気持ちを飲み込んで、この恋の幕を引こうとしていた。

彼の強引さは、そんな私の最後の逃げ道さえも、容赦なく塞いでしまう。だけど不思議と嫌ではなかった。

私は彼の大きな背中を、覚悟を決めた瞳で見つめた。


震える声で涼介の家の住所を告げると、一ノ瀬は黙って頷いた。

「しっかり、つかまってろ」

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