私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
そのぶっきらぼうな声が背後で響くと同時に、低いエンジン音が唸りを上げ、私の体は強い重力と共に後ろへと引かれる。

彼の背中にしがみつきながら、これからのことを想像すると、心臓がドクドクと早鐘を打ち始めた。

ちゃんと言えるだろうか。本当の気持ちを。涼介はなんて答えるだろう。

困った顔、戸惑う顔、悲しい顔……。いくつもの彼の表情が脳裏に浮かんでは消えていく。

いくつもの涼介の顔を思い浮かべながら、私は一ノ瀬の背中に、ぎゅっと腕を絡ませた。

「ここか?」

一ノ瀬が目の前にそびえ立つマンションを顎でしゃくる。私はこくんと小さく頷いた。

「連絡してみたら」

そう言いながら彼はバイクを降りると、私のヘルメットにそっと手をかける。

ヘルメットという最後の鎧を剥がされる直前、ずっと心の底に押し込めていた恐怖がこぼれ落ちた。

「沙羅さん、いたらどうしよう」

私の震える声に、彼の手がぴたりと止まる。九月の生温い夜風が、ざわりと街路樹を揺らし、その音が私の不安を煽るように背筋を駆け上がった。

「いたらいた時だろ。お前だけが遠慮して、立ち止まってるのはおかしい」

彼は再び手を動かし、私の頭からヘルメットを抜き取る。夜の空気に晒され乱れた髪が風になびいた。

その髪をそっと手で抑えると、一ノ瀬が見上げているマンションの一室に視線を向ける。

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