私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
菜穂が小柄な体型からは想像もできない力で、私の背中をぐいぐいと押す。

「無理無理無理。それに急に話しかけられたら怖いって」
「何言ってんの! 今日は無礼講だって。それにこのチャンスを逃したら次はないよ?」

興奮する菜穂に押されながら、弱々しくかぶりを振る。

話しかけろって言われてもなんて切り出せば? この前は外科外来わかりましたか、って?

いやいや、共通点もないし、向こうからしたらきっと誰? 状態。変な女だって思われかねない。

なんて考えている間にも、木崎さんは資材課の部長(50歳)と談笑しながら、こっちへとやってくるのが見えた。

目尻を下げ、優し気に笑う姿に思わず目を奪われた。

あんなふうに笑うんだ。いつも仕事中の顔しか見ないから新鮮。

「冴島さんたちも来てたんだね。お疲れ」

思わず見とれていると、資材課の部長が私たちの前で足を止め、声をかけてきた。慌てて会釈し挨拶をする。

「お、お疲れさまです」
「あ、そうそう。今度医事課に新しい印刷機を導入しようと思ってて。木崎くんに相談してたところだったんだ。君たちの意見も今度聞かせて」
「はい。私たちで良ければ」

そう答えながら、チラリと木崎さんを盗み見る。その瞬間、心臓がドクッと跳ねた。

凛々しい立ち姿なのに、顔は笑顔で、優しそうな雰囲気を醸し出している。それに前々から思っていたけど、声がいいんだよな。

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