私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
病院関係者の女性に、次々と手を出している、なんて最悪の可能性までが頭をよぎり、さっきまで膨らんでいた淡い期待の泡が、音もなく弾けて消えていくような気がした。

「何、浮かない顔してるのよ。凛の笑顔に惚れたってことでしょ。自信持ちなよ。パーティーの時だって、飛んできてくれたじゃん!」  

菜穂のまっすぐな言葉に、凍りつきそうだった胸の奥が少しだけ温かくなる。

「それは確かにそうなんだけど……」

あの時、私だからハンカチを貸してくれた? 外科外来の件だって、わざとだって言ってたし。

「結婚式には呼んでよ。余興は任せて!」
「ちょっと、気が早いって!」

思わず突っ込みつつも、菜穂の陽気な言葉に、心のどこかで浮足立っている自分がいた。

「ねぇ、一ノ瀬はどう思う?」

私の隣に座る一ノ瀬に、菜穂が身を乗り出すようにして尋ねる。しかし、彼は普段以上に険しい表情をしていて、口を開こうとしない。

その沈黙が、じんわりと居酒屋の賑やかさを吸い取っていくように感じられた。  

あれ、どうしちゃったんだろう?

私が怪訝に思っていると、一ノ瀬が喉の奥から絞り出すように重いため息と同時に発した。

「水差すようで悪いけど、あの人が女性といるところを見た」

その一言に「え?」と、箸を伸ばしかけていた私の手が、宙でぴたりと止まる。
< 27 / 190 >

この作品をシェア

pagetop