私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
作り笑いを浮かべ、わざと明るい声を出して暗い空気を一掃しようとする。唇の端を無理に引き上げ、心の奥でチクリと痛むのを押し殺した。

何が本当かはわからないけれど、とりあえず浮かれたり、都合のいい解釈をするのはやめよう。これ以上、二人を心配させたくない。
「それもそうだね。まさか王子が不倫ヤローだとは。ほんと、最低」

まだそうと決まったわけじゃないのに、菜穂の顔には既に怒りと、獲物を狙う獣のような殺気が宿っている。その表情に、ほんの少しだけ気持ちが軽くなった。

「一ノ瀬、なんかごめんね。もしかして好き勝手盛り上がってる私たちをみて、笑ってたり……?」  

私が遠慮がちに尋ねると、彼はふっと息を吐いてから、まっすぐな瞳で私を見た。

「笑うわけないだろ。傷つけられたら嫌だと思ってただけ」

その不器用な優しさに、じわりと目頭が熱くなった。

いつも何を考えているのか分かりづらいし、口も悪いけれど、こういう時、彼は決して茶化したり、馬鹿にしたりしない。ただ、静かに寄り添ってくれる。

「とりあえず、今日は飲んで、食べて忘れよう!」
「そうだね、明日休みだし。凛、うち泊まりくる? 一ノ瀬もこの際いいよ!」

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