私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
いやいや、一ノ瀬はダメでしょと笑いながら、再びグラスを掲げて乾杯する。菜穂のこういうあっけらかんとしたところに、いつも救われる。うじうじと悩み続ける私とは真逆で、見習いたいとさえ思う。

「次、次! 次の恋だよ、凛!」

そんな騒がしい声が居酒屋の喧騒に溶けていく。私たちは閉店間際まで居座り、グラスを傾け続けた。


翌朝、重い瞼をこじ開け、ふらつく足取りでリビングへ向かう。昨夜、菜穂の家で飲みすぎたせいで、頭の芯がずきずきと痛んだ。

スマホを充電器から外し、何気なく画面を覗き込むと、通知のアイコンが目に飛び込んできて心臓が跳ね上がった。木崎さんからメッセージだ。

しかも昨夜きていたようで、飲んでいたせいか全然気づいていなかった。

「今日はありがとうございました。今度ゆっくりお話がしたいです。近いうちにお食事でもいかがですか?」

指先が震え、何度もメッセージを読み返した。文面は至って丁寧で、彼らしい几帳面さが滲み出ている。

だが銀座で女性といたという一ノ瀬の言葉が脳裏をよぎり、思い出したように胸の奥がチクリと痛んだ。

どうしよう。やっぱり断るべき?

でも昨日の話はどれも憶測に過ぎない。人づてに聞いた噂話のようなものを 信じるのも違う気がする。ここは正直に聞いてみよう。そう思い、返信の文字をタップする。

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