私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~


いかつくて、見た目は男っぽいのに、酒が飲めないというのが彼にとってコンプレックスだとか。きっと顔が赤くなったり、バカにされたり嫌な思い出があるのだろう。趣味はバイクでこの連休も、九州一周すると言っていた。

「九州のお土産は?」
「こっちこそお礼、まだもらってないんだけど」
「え~、同期のよしみでまけてよ。ね? お願い一ノ瀬くん。今月金欠なの」

手を合わせ、弱々しく首をかしげる。それを見た一ノ瀬は、うざそうに目を泳がせていた。

「今日の昼めし奢れよ。社食集合な」
「だから金欠だって言ってるでしょ……って、ちょっと一ノ瀬!!」

私の反論も聞かずスタスタと戻っていく。もう、横暴なんだから。そうこうしているうちに、玄関のドアが開き患者さんがドッと押し寄せる様に入って来た。

今日はきっと戦場になるだろうな。そう予感しながら私は受付でとびきりの笑顔を作った。

◇◇◇

「人のおごりだからって、かつ丼とラーメン頼むなんてありえないんだけど!」

昼休み、私の前で豪快にご飯を頬張る一ノ瀬に向かって、目と口で抗議する。

こいつがよく食べる奴だと言うことは前々から知っていたけど、まさかその本領をここで発揮するとは。信じられない。

「お前のおごりなんだからいいだろ」
「それが良くないって言ってるの」

悪びれる様子もなく、黙々と箸を進める一ノ瀬。ほんといい性格している。

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