私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
私は彼の腕にそっと自分の腕を絡めてみたが、気づいているのかいないのか、何の反応も示さない。

「この辺り、静かでいいね。駅前とは全然違う」

必死に絞り出した私の明るい声に、彼は一瞬だけこちらに視線を向けた。

「……うん、そうだね」

それだけをぽつりと返すと、彼の瞳はまたどこか遠くの、私の知らない場所を彷徨い始める。

スーパーに着いても、彼は心ここにあらずといった様子で、カートを押しながら私の後ろをついてくるだけだった。

「涼介、今夜何食べたい? パスタにする? それともお肉料理?」
「……凛の食べたいものでいいよ」
「じゃあ、このお肉美味しそうじゃない? ワインに合いそう!」
「……そうだね」

私が何を話しかけても、返ってくるのは「うん」「そうだね」という気のない返事ばかり。

彼が上の空なのは明らかで、私の胸はどんどん不安に包まれていった。

涼介の家に戻り、二人でキッチンに立つ。とはいえ、料理をするのはほとんど私一人で、涼介はただ壁に寄りかかって、ぼんやりとその様子を眺めている。

悪戯好きの涼介のことだ。普段の調子だったら、きっと後ろからちょっかいをかけてきたり、つまみ食いしたりするはずなのに。私のことなんて、全く見ていない。

楽しみにしていたはずの時間が、ただ気まずく過ぎていく。

「できたよー!」

< 62 / 190 >

この作品をシェア

pagetop