私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
静寂を破り、涼介が遠くの岬を指差す。私はこくんと頷くと、歩き出した彼の背中を、少しだけ距離を置いて追い始めた。

初夏の太陽は、まるで二人の間の気まずさを見透かすように、ギラギラと容赦なく砂浜を照らしつける。背中にじっとりと汗が滲み、砂に足を取られて次第に足取りは重くなっていく。

それでも波打ち際を撫でる風は心地よかった。指の間に湿った砂が入り込む感触を楽しみながら、ぴちゃぴちゃと足を海水につけて歩いた。

周りでは、父親の肩車ではしゃぐ子供たちの甲高い声が響いている。すぐそばを手を繋いだ同い年くらいのカップルが、楽しそうに笑いながら追い越していった。

みんな、幸せそう……。

その光景がまるで遠い世界の出来事のように、私の目には映っていた。

海開きが始まればこの静かな浜辺も、もっとたくさんの笑顔で賑わうのだろう。その時、私の隣には誰が立っているのだろうか。もしかすると、誰もいないかもしれない。

「あ、また貝殻」

そんな寂しい想像をしていると、つま先で蹴った砂の隙間から先程のより少し大きめの、白く艶やかな貝殻が顔を覗かせた。

「やった!」

思わず声が弾む。また一つ、今日の思い出が増えた。 そんな小さな喜びに胸を躍らせていた、その時だった。

すぐそばから、久しぶりに聞く、堪えきれないような笑い声が聞こえてきた。

< 78 / 190 >

この作品をシェア

pagetop