私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
ポタポタと滴が落ちるスニーカーを片手に持つと、「行こうか」と私を促した。

「うん。待って……」

彼の隣に追いつくと、歩くたびに揺れる彼の手が目に入った。今なら自然に繋げるかもしれない。

さっきの笑顔で生まれたこの温かい空気ごと、ぎゅっと掴んでしまいたい。

高鳴る心臓を抑え私は一歩、彼との距離を詰めた。勇気を振り絞って、そっと手を伸ばす。

指先が彼の手にかすかに触れようとした、その時だった。

「凛……」

予期せぬ低い声に、伸ばした手が凍り付くように止まった。さっきまでの温かさはどこにもない、氷のように冷たい声音。

涼介は私に背を向けたまま、静かに続ける。

「大事な話、していい?」
「大事な、話」
「あぁ……」

楽しい時間が、終わりを告げようとしている。

さっきまで彼に触れようとしていた手は行き場をなくし、早鐘を打ち始めた胸元を、きつく握りしめることしかできなかった。

嫌な予感が心臓に冷たい茨のように絡みついてくる。 砂を蹴る足が自分のものじゃないみたいに、ぐらぐらと揺れた。

今から私は、何を言われるの?

押し潰されそうな不安を飲み込み、私はかろうじて「わかった」と小さく返事をした。

少し歩いたところで、涼介が振り返る。

「少し、座る?」

その問いかけに黙って頷くと、彼は素早く羽織っていた上着を脱ぎ砂の上にそれを敷いた。

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