私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
「だけど産まないんだ」
「え?」
「正確には、産めないって。あいつ、そう切り出した途端に泣き出して、取り乱して。あんな沙羅、見たことなかった」
彼の声が、刹那に詰まる。その苦しそうな姿に、私の涙もまた、はらはらと砂の上に落ちて沈んでいった。
「産めないってそれは、どういう……」
「赤ちゃん、気づくのが遅くて、もう弱ってるらしいんだ。だから、病院でもう諦めろって、言われたって」
「そんな」
苦痛に歪む彼の顔から、私は思わず目を逸らした。
「凛には、本当に申し訳ないと思ってる。だけど俺は、精神的にも肉体的にも、沙羅を深く傷つけた。だから、沙羅のこと、支えたいんだ」
絞り出したような声でそう言うと、涼介は私をふんわりと優しく抱きよせた。
その腕の中で、熱くなった瞼を閉じる。涙が一筋、また一筋と流れ彼の肩を濡らしていった。
「沙羅は、やっとオープンさせた美容室も、ずっと休んでる」
美容師……。以前、彼から聞いた、彼女の僅かな情報。
「やっとの思いで起業したのに、頑張ってきたのに、それすらも俺はぶち壊してしまった。だから、沙羅と一対一で向き合うって、一緒に乗り越えようって決めたんだ。よりを戻すとか、そういうのとは別の話として、ただ、沙羅に責任をもって償いたい」
「……涼介」
「凛の顔見てると、何度も揺らいだ。だけど、このままじゃいけない。こんな俺とじゃなくて、ちゃんとした道を歩んでもらわないとって」
涙でぐしゃぐしゃの顔で彼の胸にしがみつくと、がむしゃらに何度も首を振った。