私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~

「いやっ、」
「凛」
「いやだよ、別れたくない……」
「こっち向いて」

そっと両手で私の頬を包み込むと、親指で何度も何度も涙を拭う。

「りょう、すけ……」

離れたくない……

「本当に、ごめん…」

いつもの優しい眼差しが、私を見つめる。あなたのその目も、この手もその声も、全部離したくない。

こんなに好きなのに。離れたくないのに……

「凛、愛してる。だけど、これ以上一緒にいられない」

その言葉と同時に、足元に寄せた波が、さあっと音を立てながら、私たちの足跡をかき消す。

まるで初めから、何もなかったかのように……。

◇◇◇

海から車まで、どうやって戻ってきたのかわからない。 あの残酷な言葉を聞いてからの記憶は、まるで濃い霧の中のように、白く霞んで思い出せなかった。

気がつけば、私は涼介の車の助手席に座っていて、窓の外には見慣れた風景が流れていた。エンジン音が静かに響く車内は、重たい沈黙に支配されている。流れてくる陽気なラブソングが、今の私にはひどく残酷に聞こえた。

この道が終わってしまえば、本当に、私たちも終わってしまう。 いつもの風景を、こんなに恨めしく思ったことはない。
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