私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
私は振り返らず、アスファルトをただまっすぐに歩き出す。
これでいいんだ。涼介は沙羅さんの元に帰る。私はほんの少しの時間、甘い夢を見させてもらっただけ。ただ、それだけ。
「待って!」
すると、背後から追ってきた涼介が、私の腕を強く掴んだ。
「お願い、もう、行かせて」
必死に振り払おうとしても、彼の腕は鉄のように固く、ピクリとも動かない。
「凛、ごめん」
震える声が、何度も何度もそう繰り返す。背後から聞こえる鼻をすするような音に、胸が張り裂けそうだった。
あなたの謝る姿なんて、見たくないよ。そんな弱々しい声、聞きたくない。いつものように、涼しげで柔らかい笑顔を向けてよ。そんな涼介が、大好きだから。
「決心が鈍らないうちに、行かせて」
そう言うと私を掴む涼介の腕に、ぐっと力が入るのを感じた。
「……クソッ、離したくねぇ……」
苦痛を絞り出すようなその声に、堪えていた涙のダムが決壊した。とめどなく溢れる涙を、拭っても拭っても、拭いきれない。
そんな意味のない行為を繰り返した後、私はありったけの力を振り絞るように、笑顔で振り返った。
「バイバイ、涼介」