悪女は穏やかに眠りたい ~『天使の寝顔』は追放先で溺愛される~
 翌朝、私は厳重な護衛をつけられ、国境へと向かう馬車の中にいた。昨日までとは違い、今日は静かだ。
 馬車の窓から見えるのは、冷たい冬の森の風景だけ。

(もう、誰の目も気にしなくていい。仕事を抱え込む必要もない…)

 仕事は終わったが、別の問題はいくつも浮上する。
 獣人国ではどんな扱いをされるのだろうか。昨日の婚約破棄から、今日の追放。手際の良さを考えるに、前から練られていた計画なのだろうと察する。私の身柄に関する取引が知らないところで行われていたと考えると、何とも嫌なサプライズだ。

 私は硬い座席に身体を預け、目を閉じる。不眠症と診断されて早数年。深い眠りとは無縁だった私の意識は、今日も簡単には沈まない。
 追放先の悪名高い獣人国。未来など、どうでもいい。ただ、この馬車の中で、ほんの少しだけでも眠りたい。

(…ささやかな願いすらも叶わないのね)

 目を閉じても眠れないことは単にストレスになる。
 しばらく目を閉じていたものの、私は深くため息を吐くと目を開けた。そして、車窓に目を向けたのだった。
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