姫花 —ヒメバナ。花言葉は、裏切りの恋—
「あれ、もしかして新しい指輪ですか?」
デスクに戻ると開口一番、美紀ちゃんのチェック。右手の薬指で真新しい輝きを放つ、ダイヤモンドが可愛らしくあしらわれたピンクゴールドの指輪。それを隠すように触りながら美紀ちゃんを見れば、そこにはキラキラとした可愛い真ん丸の瞳。
「……うん」
「いいなぁ。あんなに素敵な彼氏がいて、そんな素敵な指輪までもらって。先輩、幸せ独り占めじゃないですかぁ」
「ん~? そう、かな……」
「海外出張のお土産ですか?」
「うん、そうみたい」
「そうみたいって……んもう」
「だって、あんまり話できなかったから。忙しいみたいで」
あの後、屋上庭園で渡された指輪。
「これ、ニューヨークの本店で買ったんだ。すみれに似合いそうだったから。誕生日、おめでとう」そう言って指輪を手渡してくれて、軽くキスをして再び仕事に行ってしまった。
ものの十分で二十日ぶりの逢瀬は終わり。
お仕事なんだから寂しいなんて思う方が間違っていて、疲れ切っているはずなのに、たった十分しかない中でも来てくれたことを嬉しいと思わなきゃいけないはずなのに、屋上庭園で彼を見送った時の方が海外出張中の十日間よりももっと寂しくなった。
だって……
「ごめん、すみれ。二週間は時間、とれそうもない」
そんな言葉を彼が残していったから。海外にいて会えないのは当たり前。でも日本にいるなら、もう少し会いたい。そう思うのは、わたしが欲張りだから?
「今日はデートですしね! いいなぁ」
「あ、今日は……」
美紀ちゃんに今日はダメになったと伝えようとした瞬間。
「宇野、酒井、休憩終わってるぞ。研修資料終わったのか?」
外出から戻ってきた坂口部長の声が届く。
「うわ、やっば」
美紀ちゃんは小声でそう呟いて、そそくさと前を向く。
「すみません」
そう言って、見上げた私に坂口部長はその眼鏡の奥でふわりとほほ笑んだ。そして何食わぬ顔で自分のデスクに座ると、さっとスマホを取り出して素早く指を動かす。
「坂口部長、本当コワイですよね、先輩」
怒られても、美紀ちゃんはなんのその。「ひゃー」って言いながら肩をすくめて、そしてまた話し出す。
デスクに戻ると開口一番、美紀ちゃんのチェック。右手の薬指で真新しい輝きを放つ、ダイヤモンドが可愛らしくあしらわれたピンクゴールドの指輪。それを隠すように触りながら美紀ちゃんを見れば、そこにはキラキラとした可愛い真ん丸の瞳。
「……うん」
「いいなぁ。あんなに素敵な彼氏がいて、そんな素敵な指輪までもらって。先輩、幸せ独り占めじゃないですかぁ」
「ん~? そう、かな……」
「海外出張のお土産ですか?」
「うん、そうみたい」
「そうみたいって……んもう」
「だって、あんまり話できなかったから。忙しいみたいで」
あの後、屋上庭園で渡された指輪。
「これ、ニューヨークの本店で買ったんだ。すみれに似合いそうだったから。誕生日、おめでとう」そう言って指輪を手渡してくれて、軽くキスをして再び仕事に行ってしまった。
ものの十分で二十日ぶりの逢瀬は終わり。
お仕事なんだから寂しいなんて思う方が間違っていて、疲れ切っているはずなのに、たった十分しかない中でも来てくれたことを嬉しいと思わなきゃいけないはずなのに、屋上庭園で彼を見送った時の方が海外出張中の十日間よりももっと寂しくなった。
だって……
「ごめん、すみれ。二週間は時間、とれそうもない」
そんな言葉を彼が残していったから。海外にいて会えないのは当たり前。でも日本にいるなら、もう少し会いたい。そう思うのは、わたしが欲張りだから?
「今日はデートですしね! いいなぁ」
「あ、今日は……」
美紀ちゃんに今日はダメになったと伝えようとした瞬間。
「宇野、酒井、休憩終わってるぞ。研修資料終わったのか?」
外出から戻ってきた坂口部長の声が届く。
「うわ、やっば」
美紀ちゃんは小声でそう呟いて、そそくさと前を向く。
「すみません」
そう言って、見上げた私に坂口部長はその眼鏡の奥でふわりとほほ笑んだ。そして何食わぬ顔で自分のデスクに座ると、さっとスマホを取り出して素早く指を動かす。
「坂口部長、本当コワイですよね、先輩」
怒られても、美紀ちゃんはなんのその。「ひゃー」って言いながら肩をすくめて、そしてまた話し出す。