続・幼なじみの不器用な愛し方

どうして、

「翔福亭のどら焼き食べたい……」


手元の文庫本に視線を走らせていると、カウンターの向こうから唸るような声が聞こえてきた。

顔を上げると、いつもの席でパソコンに向かう石田さんが、ぎゅっと眉を寄せて口を引き結んでいた。


いつにも増して難しい顔。

石田さん、デッドライン直前モードである。


「買ってきましょうか?」


さっき立て続けにお客さんが帰り、店内には誰もいなかったので、カウンターの中から声をかける。

と、石田さんが硬い表情のままこちらを見た。


「……いや。妊婦さんにパシリなんかさせるわけには」

「今、めちゃくちゃ迷われましたね?」


わたしの言葉に、石田さんが薄く笑った。図星だったらしい。

幸い調子は悪くないし、それに……。


「わたしもいい運動になるので。行ってきますよ」


いつもお世話になっている分、少しでも役に立ちたい。

もう一押しすると、目の下に濃いクマを刻んだ石田さんは素直に頷いた。




翔福亭は、なんと産院や行きつけのパン屋さんの近くにあった。


石田さんが手配してくれたタクシーに乗ると、見慣れた風景がずっと続いた。

産院の近くを過ぎ、パン屋さんがある駅前の交差点を右折し、それから川沿いを少し下ったところの道を左に曲がると、歴史を感じる外観が見えてきた。
< 149 / 176 >

この作品をシェア

pagetop