続・幼なじみの不器用な愛し方
咄嗟に目を逸らし、わたしは両手をお腹に添えながらタクシーを下りた。


「あ……」


家の鍵を出そうと鞄を覗こうとした時、手に持っていた紙袋の存在を思い出す。

中身は、締め切り前で屍寸前の石田さんに届けるつもりだったどら焼きだ。

頼まれたわけじゃないからそのまま持って帰ってもいいのだけれど、自分用も買ってしまったので1人では絶対に消費し切れない。


「ちょっと……待ってて」


アスファルトの地面に視線を落としたまま、有斗に向かって言葉を投げる。

返事を待つ間もなく、わたしはアパートの入口から店舗の前に回り込んだ。


「電気点いてる……」


既に仕事を切り上げて家に帰ってるかも……と思っていたけれど、ガラス扉に下ろされたカーテンの向こうにはまだ明かりが灯っていた。

扉を3回ノックし、少し間を空けてからノブに手を掛ける。


「……あれ。どうしたん?」


いつもの席にいるかと思いきや、石田さんは入口近くのカウンターの中にいた。

クマを刻んだ目を丸くして、こちらを見ている。


「差し入れ買ってきたので、お届けに。芸がないですけど」


持っていた紙袋を差し出すと、輝きをどこかに落としたようだった石田さんの目がきらりと輝いた。
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