続・幼なじみの不器用な愛し方
「うん。恥ずかしいし、別に面白みもなんもない話やから本にはならへんかもしらんけど……さくらのこと、書きたいなぁと思って」

「……っ!」

「どれだけ忘れへんと思っても、やっぱ小さいこととかは記憶から抜けていくやろうしさ。どんな些細なことも、いつでも振り返られるように。

幸せに便乗させてくれって言うだけど、でも、さくらと一緒になれた俺も幸せよなぁって思ってさ」


石田さんはこれからも、さくらさんと共に在るんだな。

愛おしい思い出を抱き締めて、その愛に殉ずると決めているんだろう。

同じ立場なら、わたしもきっとそうする。わたしと石田さんは、多分よく似ていた。


「本になってもならなくても、読みたいです。石田さんと、さくらさんのお話」

「嫌やわ、恥ずかしい」

「えー! 今の、教えてくれる流れだったじゃないですか」

「……まぁ、気が付いたらな」

「気が向いたら。約束ですよ」


未来の約束。

ここを去るけれど、石田さんとも明美さんともお別れじゃない。そのことが、こんなにも嬉しい。


いつも通りキルシュのお手伝いをして、いつも通りに終えた。

まるで明日からも日々が続いていくような温度で、店舗を後にする。

明日、キルシュを出る時には明美さんと共にお見送りをしてくれるというので、別れ際もあっさりだった。




「夜中になってごめんな」
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