続・幼なじみの不器用な愛し方

あのとき、

川沿いの道を歩きながら、発信音の鳴るスマホの受話口を耳に当てた。

コールは3度目で途切れ、溌剌とした声が応える。


『もしもし、アキ?』

「もしもし。今平気?」


電話の向こうで短く返すのは宮水だ。

懐かしさすら感じる声に、わたしはほっと息を吐く。

宮水は、わたしの新しい連絡先を知っている唯一の人物だ。

実家や結子の番号も控えてあるけれど、向こうは新しいわたしの連絡先を知らないまま、音信不通になっている。


『どう、そっちは。落ち着いた?』

「うん、何とかね。あっという間の1ヶ月だったよ」


京都に来て、早くも1ヶ月が過ぎた。

住民票を移したり新しい病院を探したり、必要なものを揃えたりと、日々は目まぐるしく過ぎていった。


「今日で安定期に入ったから、報告をと思って。悪阻もだいぶ落ち着いたよ」

『そう! よかった。4月は本当に辛そうだったもんね』

「その節はご心配おかけしました」


4月の下旬、宮水の家に居候させてもらってる時が一番のピークだった。

最終出勤まで、仕事は気合いで乗り切ったようなものだ。

今、もう一度同じ状況を乗り切れと言われても、出来る気は全くしない。
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