仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
刺激的な一夜

 初めて訪れたパリは、思った以上に煌めいていた。

 朝の光が石畳に反射して、街全体がやわらかな金色に包まれているよう。カフェのテラスには色とりどりの花が咲き、通りを行き交う人々の会話が、まるで音楽のように耳に心地いい。

 ゴールデンウイークを使った二泊四日、強行日程のひとり旅。大学を卒業後に通訳のインターンとして駆け抜けた一年のご褒美に、鎌形(かまがた)誌史(しふみ)はこの地を選んだ。

 二十三歳にして初めてのパリは春の盛りを迎え、キラキラしている。

 朝到着の便でシャルル・ド・ゴール空港に降り立った誌史は、ロワシーバスでパリの中心地に向かい、宿泊予定のホテルへ向かう前に待ちきれず街歩きをはじめた。キャリーバッグのキャスターが石畳を転がる音にさえウキウキする。

 ひんやりとした朝の空気は緩くカールした栗色の長い髪をさらりと揺らし、風に乗って漂ってくる花の香りが鼻先をくすぐるたびに、大きな目を輝かせずにはいられない。

 淡いベージュのニットに、ミモザ色のプリーツスカート。旅のために選んだその装いが、春のパリにそっと溶け込む。歩くたびにスカートの裾がふわりと揺れ、石畳に映る光を受けて、自分がこの街の一部になったように思えた。

 セーヌ川沿いを歩けば、柳の若葉が水面に揺れ、白い鳩が橋の欄干で羽を休めている。
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