仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
刺激を与えてくれる人
瞬く間に時は過ぎ、引っ越し当日を迎えた。
じりじりと照りつける太陽が、アスファルトの地面から白い陽炎を揺らしている。蝉の声は途切れることなく降り注ぎ、荷物を運ぶたびに汗が滲む。
まさに夏本番を思わせる、八月初旬の午後だった。
タクシーや自転車ではまず通りがかれないような、落ち着いた高級住宅街の一角。緑の街路樹に囲まれた低層マンションは、白とグレーを基調にした外観が周囲の風景に自然と溶け込み、洒落た品のよさを漂わせている。
大理石調のエントランスホールには大きな観葉植物が置かれ、静かに流れるクラシックが空間を満たしていた。
修吾は白い半袖シャツにベージュのチノパンという軽装で、無駄のない動きで段ボールを運んでいく。その姿は引っ越し業者に混じっても違和感がないほど頼もしい。
いっぽうの誌史は、Tシャツにクロップドパンツ、スニーカーというラフな格好。長い髪を高い位置でひとつに結んでいるが、首筋に汗がつたうのを止められず、タオルで何度も拭った。
「こっちは俺が持つから」
修吾が軽々と大きな段ボールを抱え上げるたび、誌史は感心せずにはいられない。
(こんなふうに一緒に作業していると、本当にふたりで暮らすんだって実感する……)