仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
深い愛と幸せに包まれて

 母の入院を機に、誌史は修吾と暮らしていた部屋をいったん離れ、実家に戻ることを決めた。小料理屋を営む父をひとり残すわけにはいかないし、母が入院している間はもちろん、退院後も家事や店の手伝いが必要になる。詩史には弟がいるが、関西の大学に通っているためあてにできず、今はそうせざるを得ない。

 実家に来て一週間が経過し、母の様態も安定。思いのほか長引いているが、間もなく退院できそうだと聞いている。

 あのとき修吾が駆けつけてくれたおかげで、父が到着するまでの間、詩史は心強かった。ひとりだったら、どうしようもなく寂しく、不安だったに違いない。

 この一週間、詩史は仕事が終わるとほたる庵に直行。おかげさまで常連のお客さんを中心に評判は上々である。

 店が終わると今度は家事が待っているため、修吾とはメッセージのやりとりが中心になっていた。

 昼下がり、職場のパソコンの前で翻訳の仕事を進める。ノートに走らせたメモを確認しながら英語の表現を日本語へと訳していく作業は、集中力を要するがやりがいがあった。
 しかし、ふとした瞬間に思考が途切れると、修吾の横顔やタクシーの中で絡められた指の感触が蘇り、心がざわめく。

 (修吾さん、どうしてるかな……)
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