仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです

 里依紗と別れ、最寄り駅から歩いてほたる庵の暖簾をくぐると、出汁の香りがふっと鼻をくすぐった。懐かしい香りなのに、今夜は胸を締めつけるように重く感じる。


 「おかえり」


 厨房から顔を出した父が、変わらぬ調子で声をかけてきた。


 「うん。ただいま」


 声を整えて返事をし、エプロンを身につける。
 この時間帯は常連客が中心だ。カウンターには会社帰りの男性ふたり組、奥の小上がりには近所の夫婦。みな笑顔で談笑している。


 「誌史ちゃん、この前のお通し、なんだったっけ?」


 カウンターのひとりが気さくに声をかけてきた。


 「えっと……青菜のお浸しに、しらすを和えたものです」
 「そうそう、それ! 美味しかったからまた食べたいな」
 「ありがとうございます。今日は違うものですが、また近いうちにお出ししますね」
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