仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 部長がため息をひとつ吐き、手元の資料を机に置く。


 「……以上だ。これで終わりにしよう」


 誰も口を挟まず、空気を裂くようなその一言だけが残響する。
 人々が少しずつ椅子を引き、足音を立てて控室を出ていく中、誌史は立ち尽くしていた。胸の奥にまだ熱が残っている。

 (全部、里依紗さんの仕業だったなんて……)

 信じたくない事実だが、言われてみれば数々の違和感の理由にも合点がいく。

 しかし、なんでも持っているように見えた里依紗が、嫉妬の対象として誌史を見ていたことに驚きを隠せない。羨望の眼差しで見ていたのは、誌史のほうだったのだから。

 控室にひとり残った誌史は、ようやく呼吸を整えようとしていた。

 そのとき不意にドアが開く。重い蝶番の音が静寂に響き、誌史の心臓が跳ねた。
 姿を現したのは修吾だった。真っすぐに誌史の前まで歩み寄る。


 「久しぶり、だな」
 「……はい」
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