仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 誌史は黙ってうなずいた。
 胸の奥に、少しだけ痛みのようなものが広がる。

 里依紗のしてきたことは決して許されるものではない。しかし彼女の中にそんな孤独や焦りがあったのだと思うと、ただ責めることもできなかった。

 誰かに認められたくて、愛されたくて、必死に背伸びする。その気持ちの根っこは、かつての自分にも少し似ている気がした。
 人はみな、不器用なまま、愛される方法を探している。
 そう思うと、里依紗の姿がほんの少しだけ遠くで霞んで見えた。

 誌史は静かに息をつき、気持ちを新たに会場のほうへ目を向けた。
 今日は過去ではなく、これからのために立つ日なのだ。

 控室で打ち合わせを終え、誌史は案内スタッフに導かれながら同時通訳ブースへと向かった。

 ガラス越しに見える会場はすでにざわめきに包まれ、各国から集まった代表者たちが席に着いている。壇上ではスクリーンの映像テストが行われ、照明が何度か強く点滅した。

 ブースの扉を開けた瞬間、冷んやりとした空気が頬を撫でる。
 机の上にはマイクとスイッチ、そしてヘッドセット。誌史は席に腰を下ろし、軽く息を整えながら手のひらでマイクの角度を調整した。

 指先がかすかに震えていたが、自分を信じてくれている人たちの顔を思い浮かべたら収まった。
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