最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「ずっと……こうしていたい」
 
 甘えるようにつぶやいたシルヴィオに、リーゼはかける言葉が見つからずに黙っていた。
 すると、まどろみを残した青い瞳がリーゼを捉え、愛おしそうに細められる。

「リーゼ。……気分はどうだ?」
「あ……、その、よく眠れました」

 嘘だった。眠らせてくれなかったのは、シルヴィオではなかったか。

 夜中だというのに、メイドに食事を運ばせ、ベッドの上で果実酒を口に含み、まどろむリーゼに口移しで飲ませる姿を、シルヴィオはメイドたちに見せつけた。

 結婚したばかりの妻が、戦地に向かった夫の安否を案じず、毎日のびのびと暮らしていたのだから、メイドたちは睦まじい姿にさぞかし驚いただろう。

 いまだ、ヴァイス家の使用人に打ち解けていないリーゼを心配しての行動だったのなら、彼の思慮深さに舌を巻かずにはいられない。
 しかし、こちらを見つめる濃厚な視線に気づき、ただ単に彼は人目を憚らない男なだけの気もしてくる。

「心配いらなかったか? 今夜も埋め合わせしよう」

 上機嫌に笑うシルヴィオを見て、小首をかしげると、彼はますます笑った。

「半年も妻を放っておいたのだ。三日三晩愛でても足りないであろう」
「……あ、何を」

 シーツの中へ引きずり込まれそうになり、リーゼが身をすくませると、シルヴィオは「冗談だ」と笑って身体を起こす。
 
「そろそろ支度をしよう。……今日はあなたを連れて街を案内したい」

 リーゼの胸がどくりと跳ねた。
 こんなにも都合のいい話が簡単に転がり込むとは思っていなかった。

 甘やかな朝の空気は一変し、苦しい現実が頭を冷やしていく。

「……でしたら、バルタザールへ行きたいです」

 すかさず、リーゼは申し出た。

「バルタザール……?」
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