最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「お父さまが懇意にしている、腕のいい宝石職人がいるのです。ぜひ、シルヴィオ様にご紹介したいと……」

 おずおずと告げると、シルヴィオの眉がわずかに動いた。

「ヴァルディエ公爵が……、俺に?」
「は、はい……。やはり、ご迷惑でしょうか」
「いや」

 シルヴィオはふっと表情を緩めると、リーゼの頬を指先でなでた。

「あの御仁は俺を煙たがってると思っていた。意外だな」
「お父さまはシルヴィオ様を信頼しています……」

 なんの慰めにもならない、取って付けたような言葉にもかかわらず、彼は笑い飛ばして言った。

「美しい我が娘を、好き好んで身分の低い男にくれてやる貴族などいない。せいぜい嫌われないように振る舞うとしよう」

 ずきりと痛む胸を押さえる。

 シルヴィオがそう思うのも無理はない。アルブレヒトが彼に対し、石像のような冷淡さを崩したことなど、一度としてなかったのだから。

「シルヴィオ様は、いずれ伯爵家の当主となられる方ではありませんか。身分が低いなどと卑下なさらないでください」
「リーゼは見た目通り、優しいのだな。嘘は言わない娘と信じているよ」

 シルヴィオはちらりとリーゼを見て、優しく額にそっと口づける。

 ますます彼女の胸は痛む。
 彼を裏切っている無価値な自分が、どうしようもなく惨めに思えた。

「さあ、出かける準備をするとしよう」

 シルヴィオはベッドを降りると、筋肉質の背中にシャツを羽織り、声をあげた。

「エルナ。リーゼの着替えを」

 呼び鈴を鳴らすまでもない。すでに部屋の前で待機していたのか、侍女のエルナがすぐに扉を開け、穏やかな表情で深く頭を下げた。
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