最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 この屋敷はシルヴィオの愛で満ちている。
 今さらそれに気付かされ、複雑な気持ちで歩いていくと、玄関ホールに姿を現したシルヴィオが目を細めて歩み寄ってきた。

 まぶしいものを見るかのような視線に戸惑っていると、シルヴィオは思いもよらないことを口にした。

「例のバルタザールとかいう宝石商だが、店の場所がわかった。すぐにでも出かけよう」
「えっ……おわかりになったのですか?」

 リーゼは目を丸くした。まさか、そんなにすぐ見つかるとは思ってもなかった。

「シモンに調べさせたのだが……、しかし本当にその店で合っているのか……」

 言いよどむシルヴィオに、リーゼは一気に不安になった。

「……何か、気になることでもあるのですか?」

 シルヴィオはすぐさまうなずいて、眉を寄せた。

「バルタザールの店は路地裏の入り組んだ場所にあるようだ。本当に、公爵御用達の店なのかと、気になってな」

 やはり、表通りにはない店だったようだ。

(ああ、どうしよう。疑われてしまうかもしれない)

 リーゼはどう繕えばいいかわからないまま、早口で答えた。

「お、お父さまからは、職人気質の気難しい方と聞いていますから、ひっそりとお暮らしなのかもしれません」
「なるほど。隠れた名店というわけか」

 あごをするりとなでたシルヴィオはすぐに納得したようだったが、リーゼの胸は不安で押しつぶされそうだった。

 こんな簡単な嘘に、彼が気づかないものだろうか。しかし、リーゼを信用している彼なら、何も疑わない可能性もある。今はそれに賭けてみるしかなかった。

 リーゼは気を取り直すと、ゆったりとした笑みを浮かべ、彼の手にそっと指を絡ませた。

「シルヴィオ様とのお出かけ、楽しみです」
「あ、ああ……」

 どういうわけか、彼はわずかにほおを赤らめると、彼女の手を引き、待たせていた馬車の中へと乗り込んだ。
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