最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
あの日──、確かに見たのだ。
ウェディングドレスの採寸を終え、部屋へ戻ろうとしたあのとき、アルブレヒトがこの男と応接間で話す姿を。
『この旗の紋章をよく覚えておけ。次に声をかけるときは、獲物に仕掛けるときだ』
低い声でバルタザールへ命じたアルブレヒトの手には、太陽を模した模様の描かれた紙が握られていた。
リーゼはあの模様を知っていた。
(あれは、反乱軍の──暁の紋章。まさか。でも、どうして……)
ごくりと息を飲んだとき、アルブレヒトが薄く開いた応接間の扉に気付いて立ち上がった。
リーゼは無我夢中で走って自室へ戻った。
あの日見たことは記憶の中に封じ込めた。公爵邸で見聞きしたものは、そうやって忘れる努力をしてきた。そうしなければ、生きられないと信じていた。
まさか、こんなところであの日の記憶が呼び戻されるとは想像すらしていなかった。
「シルヴィオ・ヴァイスだ。珍しい場所に店を出しているのだな」
冷静なシルヴィオの声にハッとして、リーゼは彼を見上げた。
何かを疑うのか、彼は男に冷ややかな目を向けていた。しかし、バルタザールは笑顔を保ったまま、物腰柔らかに答える。
「はい。商人だった曽祖父より譲り受けた家でございます。若旦那様にはボロ屋に見えましょうが、思い入れがありますゆえ……ささ、どうぞ、中へお入りください」
バルタザールは店の奥へと進みながら、慣れた手つきで壁のランプに次々と火を灯していった。
ウェディングドレスの採寸を終え、部屋へ戻ろうとしたあのとき、アルブレヒトがこの男と応接間で話す姿を。
『この旗の紋章をよく覚えておけ。次に声をかけるときは、獲物に仕掛けるときだ』
低い声でバルタザールへ命じたアルブレヒトの手には、太陽を模した模様の描かれた紙が握られていた。
リーゼはあの模様を知っていた。
(あれは、反乱軍の──暁の紋章。まさか。でも、どうして……)
ごくりと息を飲んだとき、アルブレヒトが薄く開いた応接間の扉に気付いて立ち上がった。
リーゼは無我夢中で走って自室へ戻った。
あの日見たことは記憶の中に封じ込めた。公爵邸で見聞きしたものは、そうやって忘れる努力をしてきた。そうしなければ、生きられないと信じていた。
まさか、こんなところであの日の記憶が呼び戻されるとは想像すらしていなかった。
「シルヴィオ・ヴァイスだ。珍しい場所に店を出しているのだな」
冷静なシルヴィオの声にハッとして、リーゼは彼を見上げた。
何かを疑うのか、彼は男に冷ややかな目を向けていた。しかし、バルタザールは笑顔を保ったまま、物腰柔らかに答える。
「はい。商人だった曽祖父より譲り受けた家でございます。若旦那様にはボロ屋に見えましょうが、思い入れがありますゆえ……ささ、どうぞ、中へお入りください」
バルタザールは店の奥へと進みながら、慣れた手つきで壁のランプに次々と火を灯していった。