最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 琥珀色の光が室内を照らし出す。ベルベットのカーテンに、革張りのソファー。木製のカウンターには、真鍮の秤が置かれ、その奥のガラス棚の中には、ネックレスや冠などの宝飾品が飾られていた。

 その煌びやかな店内を眺めたシルヴィオは、「……ほう」とつぶやくと、ソファーへと腰掛けた。

「公爵様より、英雄たる若旦那様に相応しい品を用意せよと仰せつかり、ご用意したものがこちらでございます」

 カウンターの奥から姿を現したバルタザールの手には、真紅の布に覆われた盆があった。彼は仰々しく布をめくり、シルヴィオの前へと差し出す。

 中央の台座に鎮座するのは、大きな宝石を支える銀の指輪だった。
 中央にはめ込まれた黒い石は、周囲の光を吸い尽くしたかのように黒々と輝いている。その、否応なしに目を引きつける強烈な強さに、リーゼは警戒心を強めた。

「これは?」
「王都でも入手困難と言われております、大変珍しいブラックダイヤモンドでございます」
「これを、ヴァルディエ公爵が俺に?」

 信じられない……と首を振ったシルヴィオは、指輪を手に取ると、灯りにかざすようにして眺めた。
 その様子を、バルタザールはにこやかに見つめている。まったく隙のない笑顔がやけに不気味に見える。

(何を企んでいるのかしら……)

 リーゼは用心深く周囲を見回す。

 カウンターの奥には、雑然と積まれた紙の束。使われていないランプにはほこりがうっすらと積もり、昨日今日、急いで作らせた宝石店のようには見えない。
 
 しかし、半年あれば……。
 レナート失脚のために、用意周到な準備をする十分な時間はあったとも言える。

「……素敵だわ、シルヴィオ様。私にも見せてくださいますか?」
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