最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
「あ、ああ。……驚いたよ。これほど見事な宝石は見たことがない」

 リーゼはシルヴィオから指輪を受け取ると、じっと光る石を眺めた。

「本当に素敵」

 闇のように深くて暗い石だが、何か仕掛けられているようでもない。

(……考えすぎだったかしら)

 父はただ単に、シルヴィオに指輪を送りたかっただけだろうか。

 しかし、すぐにその考えを否定する。
 あの冷酷無比なアルブレヒトが、意味もなくこのような施しをするはずがない。

 指輪を台座に戻そうとしたリーゼは、わずかに息をのんだ。

 銀の輪の内側には、見覚えのある模様が刻印されていた。

 それは、暁の紋章に違いなかった。

 アルブレヒトはこれをシルヴィオに持たせ、国王に叛意がある者として糾弾するつもりなのか。それはのちに、シルヴィオを重用するレナートの罪になると考えて。

 リーゼの胸に迷いが生まれた。

 知らぬふりをして、シルヴィオにこの指輪を勧めればいい。そうすれば、弟のリヒトは助かる。もうアルブレヒトの言いなりになる必要もない。

「では、これをもらおう」

 シルヴィオがブラックダイヤモンドを指差した。

 黙っていればいい。勧めたわけじゃない。シルヴィオが勝手に買うと決めたのだ。
 罪の意識などいらない。

 でも──

「では、お包みいたしますので少々……」

 バルタザールが腰を浮かすと同時に、リーゼは冷や汗が背中に流れるのを感じながら、シルヴィオを見上げた。

 何も知らない彼は、罪のない笑みを見せている。リーゼの心臓は張り裂けそうに拍動した。

 ──氷の騎士と呼ばれる、戦場では冷徹に戦う彼との結婚が決まったときは、公爵家での生活と変わらない冷たい毎日が待っていると思っていた。
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