最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 けれど、そうじゃなかった。エルナもシモンも……使用人たちは皆、留守にするシルヴィオの代わりに、リーゼを大切に扱った。
 それもこれも、シルヴィオがそうするように命じたからだ。

 シルヴィオは結婚したその日から、リーゼを妻として慈しんでくれていたのではないか。

 そんな彼を、本当に……、本当に、裏切ってもいいの?──

「待ってくださいっ! ほ、ほかの宝石も見せてくださるかしら?」

 リーゼはバルタザールを引き止めた。彼は一瞬、眉をひそめたが、すぐに笑みを取り繕った。

(ああ……、どうしよう。お父さまの計画を潰してしまったわ。報いは何かしら……。リヒト……、あなただけは無事で──)

 祈るように両手の指を絡ませると、バルタザールはいくつもの宝飾品を運んできた。

「これらはすべて一級品でございます。当店には、これ以上のものはございません。どうぞ、心ゆくまでご覧ください」
「あ、ありがとう。シルヴィオ様には、もう少し明るいお色がお似合いになると思いまして」

 早口で取り繕ったリーゼは、それらの中から、銀の鎖に青い宝石がきらめく首飾りを選び取った。

「シルヴィオ様の瞳のように力強くて美しい宝石ですね」
「ブルーサファイアでございます。よくお似合いになると思いますよ」
「ええ、そうね。……私、こちらがいいわ」

 宝石に触れる指先がわずかに震えていた。それでも、不思議と後悔はなかった。
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